哲学
工場レイアウトの根本哲学は、一言で言えば「流れ化」をつくることです。さらに言えば、「仕掛(しかかり)品在庫を最小に、リードタイムを最短にする」ことです。これにつきます。もちろん、安全・品質・環境問題をクリアにしながらです。
根本にこの哲学が貫かれていなければ、レイアウトは本物になりません。在庫という安全パイ・バッファーをもちながら生産するなら誰にでもできます。いざとなれば、それを使って時間を稼ぎ、後工程に迷惑をかけないですむからです。
以前ある創業社長(80歳)に、「なぜ自動倉庫の完成品在庫を減らさなければいけないのですか? 品切れを防いで、お客様の要望にすぐ応えられるのに」と聞かれて絶句したことがあります。そういうビジネスモデルを構築し、会社を発展させてきた自信からそうおっしゃたのでしょう。
今ならこう答えます。「仕掛品在庫が諸悪の根源ですからまず、それを半減しましょう。そして、原材料在庫、完成品在庫の順に半減していきましょう。在庫に眠っていたキャッシュがよみがえり、やがて無借金の優良企業になれます。そして現場に良い緊張感を与えつづけ、改善体質の企業になれます」と。
生産のプロのやり方は、極力在庫に頼らず、その場その場で待ったなしで、良品を後工程がほしいだけつくります。一見危ない橋を渡っているようですが、そこには段取替と設備保全という強い味方がいます。これらが支えになり、できたものをすぐ後工程に渡すことで、在庫もリードタイムも最小ですむわけです。
結論は、「仕掛品在庫を最小に、リードタイムが最短になることを、構造面のレイアウト改善で実現しやすくする」ということです。
区分
レイアウトは、①新規設計(まっさらで行う)と、②既存の改善の2つに分けられます。ここではニーズの多い②既存の改善について述べます。
手順
レイアウト改善の手順は以下の通りです。
①現場にある主要なもの(設備、棚、机・台、運搬具、置場など)を、レイアウト図と同じ縮尺でテンプレート(型紙)にして、現状の位置にはりつける。
②レイアウト図上に、現状の物と人の流れを色分けして線で記入する。
③その線は、生産数量や運搬・移動回数に比例した太さにする。
④一番太い線は関係が深いので、できるだけ近寄せる(テンプレート移動)。
⑤一番細い線は関係が浅いので、できるだけ遠ざける(テンプレート移動)。
⑥これを順次くり返し、調整しながら最適配置にする。
要点
レイアウト改善の要点は以下の通りです。現状を固定的に考えないことです。
①安全第一なので、安全避難路・非常口を最優先で検討する。
②出入口の位置が悪ければ、つけかえる。
③壁やパーティションがジャマなら、とりさる(強度安全上問題がなければ)。
④壁側の棚を除いて、棚の高さは1.5m以内に抑える(転倒防止と見晴らしをよくするため)。
⑤地震時には棚などは転倒するという前提で、安全避難路を検討する。
⑥仕掛品置場は、面積を極力小さくする(はみ出しては置けないように規制する)。
⑦設備は移動しやすいように極力キャスターをつける。
⑧電線・エア配管は地下ピット式をやめ、上空ラック式に変える。
⑨5S、見える化、目標管理などの改善ボードを最適位置に配置する。
⑩余裕スペースは、安易に使わせないようにロープなどで囲う(使いたいときは工場長決済にする)
目標
良いレイアウトになったかどうかは、次の3つの指標で効果測定します。
①仕掛品在庫滞留時間率:[仕掛品在庫量(金額)✖滞留時間] ÷ 全投入量(金額)
工程が今欲しくないものを過早・過剰投入されることを防ぐことにもなります。
つきつめていくと、「後工程引き取り」の考え方になっていきます。
②面積生産性:全出荷量(金額)÷ 使用面積
出荷量とは、次工程に引き渡した量です。使用面積とは、使用可能面積ー余裕スペース面積 です。ほとんどの生産現場で、余裕スペースを区分けせず、ダラダラと勝手使いしているのを見るたび残念に思います。
小売業界の雄ドンキ・ホーテが強いのは、面積当りの売上高比率が高いのがその一因です。
③リードタイム:前工程の仕掛品を受け入れてから、後工程に仕掛品(完成品)を引き渡すまでに要したロットごとの正味平均時間(休日・所定外時間を除く。ただし残業時間は含める)。
毎日のように残業すると、リードタイムが長くなりますので、所定時間内に仕事を効率よく済ませようというインセンティブが働きます。また、リードタイムを長くする最大の要因は、仕掛品の滞留時間ですから、これにもメスが入ります。
この3つの指標が改善されなければ、まずレイアウトを疑い、次に管理システムを改善する必要があります。
これらの指標の管理を容易にするには、POPコード読み取り方式が前提となります。