ISO9001品質目標
ISO9001の認証取得指導や審査員をやっていたころ、組織が掲げる「品質目標」として、つぎのような事例にお目にかかりました。
スローガンを目標と勘違い
①「警備の強化」(上図左側)
②「不良撲滅」(上図右側)
これらは、目標というより、”スローガン”(あるべき方向・あるべき姿)といった抽象的な概念で、”方針”に近いものです。
ですからそれを掲げるのはよいのですが、それだけでは具体的なactionに結びつきません。
スローガンに血を通わせる
上図に掲げたように、方針を達成するための具体的な目標として、つぎのような設定例を紹介しています。
「警備の強化」目標設定事例
①「警備の強化」→「月当りヒヤリ・ハット回数を、前年度月平均回数より30%削減する」
「ヒヤリ・ハット」とは、実害には及ばなかったものの、一つまちがえたら危なかったという事象です。これを回数重ねていくうち、実害につながる確率が確実にふえていきます。
ですから、「ヒヤリ・ハット」の回数をへらすということは、それだけ実害もへらすということにつながるのです。
たとえば、「窓の鍵のかけ忘れ箇所」などの「ヒヤリ・ハット」事象発見回数をへらしていけば、「警備の強化」は着実に達成されていくでしょう。
「不良撲滅」目標設定事例
②「不良撲滅」→「不良損金(手直しを含む)を、前年度月平均より20%削減する」
「不良撲滅」(=不良ゼロ)は永遠の課題です。言葉を変えれば、”永遠に達成できない課題”です。そんな方針を掲げるのは結構ですが、目標達成上はトンデモナイコトになってしまいます。現場は大混乱です。1件不良を出した瞬間に、目標未達になって、怨まれてしまいます。
前期より不良をへらすという目標設定が現実的です。これを月々の設定目標に落としこみ、毎月その目標達成に向けて努力していきます。ここまでしてやっと、目標管理は生きたものになり、全員のベクトルをそこに向けることができます。
「医療ミス低減目標」は成り立つか?
しかしここで、私の中産連時代の同僚が発表していたことを思い出しました。彼はある医療機関(病院)のISO9001認証取得支援をしていたのですが、そこは品質目標として、「医療ミスの低減=現状の30%減」を当初考えました。
しかし社会的にはあってはならない(実際は撲滅できない)医療ミスを認めるように思われることから(ここで、発表を聞いていたConsultantたちから笑い声)、その病院は品質目標をもっと”無難なもの”に変えたとのことでした。まあ賢明で現実的な判断でした。
なぜISO目標を特別なものとして切り離すのか?
ISO9001認証取得支援・審査を通じて私が感じたことは、「品質目標」を組織の「目標管理」と切り離していることの不自然さ、効率の悪さです。なぜ組織の目標管理のなかに「品質目標」を取りこまないのかと。
これはISO14001(環境)など他の規格の目標についても同じです。全部正規の目標管理の一部としてとりこみ、一体化させればよいと思います。切り離すこと自体が何か”不自然な作為”を感じてしまうのです。
ISOに関わったものとして、こういうのはなんですが、規格を打算的・惰性的に維持するくらいなら、早く”卒業”ないし”返上”してしまえばいいのになあと。
そして維持活用したいなら、「組織の目標管理制度にしっかり一体化せよ」と、こう主張したいのです。ISOの目標も仕事の一部になり、人事考課の対象になりますから、ISOは単なるおまけ・かざりではなくなります。
こうしてISOもケジメをつけていただきたいと私は願います。
審査員の指摘には限界がある
ちなみに、ISO審査員の立場では、「ISOの目標」と「組織の正規の目標管理」とが、別立てになっていようと、乖離していようと、何も言いません(言えません)。彼らは規格に対して適合・不適合を判定する立場なので、そこまで身を入れたadviceは、職務上できないのです。
それを錦の御旗にして、審査員が何も言わなかったので、ISOに適合していると思いこむのは、”身勝手解釈”というものでしょう。
今日の結論です。
ISOを活用したいなら、組織の目標管理に取りこめ。