工場生産管理の極意

お世話になったクライエントM社の恩人A氏が69歳の若さで亡くなりました。先日お通夜に伺い、生前のご恩をしのびました。

その深夜、私はつぎのようなリアルな夢を見ました。場面だけではなく、自分の言った言葉のニュアンスまで、はっきりと覚えています。

・M社ではなく、どういうわけかK社の工場で、その幹部たちと、私の上司I氏・大先輩T氏の前で、私が大演説をぶっている。

 

・もちろん私は出過ぎて生意気に思われないよう、上司・先輩に忖度しながら話をしている。

 

・工場の幹部たちは苦笑いしながらも、おおむね賛同していただいている。

このような場面のなかで、私は自分でも感心するほどの、工場の工程管理の蘊蓄(うんちく)・極意を語っていました。目覚めてからも、なるほどその通りだと、納得感のある話でした。

話したその通りはさすがに思い出せませんが、少し脚色して物語化してみると、だいたいつぎのような話でした。

①工場は納期に追われている。納期遅れを出すことはできない。

そのため、安全策を講じることになる。そのよくある対策が、「安全在庫」をもつことだ。

 

②そのため、レベルの低い工場ほど、「材料在庫」や「仕掛品在庫」を潤沢にもちたがる。

あればあるほど、いざというときに、「納期遅れ」を出さずにすみ、自分たちの「責任」を追及されるリスクもない。

 

③しかしこれらの「安全在庫」は、麻薬性のある甘いアンコまみれの体質をつくってしまう。

知らない間に、財務の健全性は損なわれて、脆弱な企業体質となってしまう。

 

④これに果敢に挑戦したのがトヨタであった。納期を守りながら、「安全在庫」(アンコ)をどんどん削り落としていった。

もちろんそうしないと企業がもたないという財務的な危機感もあった。

 

⑤そしてトヨタでは、「在庫は罪庫(つみのこ)」という全社的な合意・信念が生まれ、ギリギリの最小在庫でも納期は守れる、という「トヨタ生産方式TPS]が確立していった。

 

⑥いやしくも日本の工場の幹部・管理者で、この事実・真実性を知らないとか、否定できる人はいないはずである。だれもが知っている「常識」である。

 

⑦しかしいざ、自分たちがそれを実行するとなると、二の足、三の足を踏むのである。

「ウチはトヨタじゃない」という聞きあきた言い訳とともに。

「わかっちゃいるけど、踏み切れない」のである。踏み切る勇気をもてないのである。トップを含めて。

 

⑧もし本気で工場改革を通して、財務的にもエクセレント・カンパニーをめざすならば、この「在庫をもたないで納期も守る」という、待ったなしのしんどい生産方式を採用せざるをえない。

とまあ、こんな大演説を、私は夢のなかでかましていたわけです。今思い返してみても、その正しさに我ながら打たれます。その二律背反の困難な課題解決のために、我々コンサルタントの出番があるわけです。

亡くなられたA氏の霊が、私の夢を刺激していただいたにちがいありません。ご冥福をお祈りいたします。ありがとうございました。天国でゆっくりと幸せにお過ごしください。