Column⑱ 人生絶頂期の落とし穴 Scott Waddle

えひめ丸沈没事故5S 見える化 コンサルティング

一昨日は「えひめ丸沈没事故20周年」の日に当たり、新聞などで報道されました。事故の概要は次の通りです(朝日新聞2021年2月10日夕刊1面)。

2001年2月10日午前8時43分(現地時間9日午後1時43分)、ハワイ・オアフ島沖で、愛媛県立宇和島水産高校の漁業実習船えひめ丸と、急浮上した米原子力潜水艦グリーンビルが衝突。

 

えひめ丸は沈没し、乗員35人のうち、実習生4人、指導教官2人、乗組員3人の計9人が犠牲になった。

首相・森喜朗の不適切な対応5S 見える化 コンサルティング

当時首相であった森喜朗は、人間性道徳・礼儀に欠ける不適切な対応で、結局退陣の一因をつくってしまいました(下記記事)。そして今もまたそれをくりかえすこりない人間と、そんな者でもありがたく押し頂く(利用しようとする)人間はいるものなのですね。

東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は事故(正木注:えひめ丸沈没事故)当時の首相で、事故の一報を受けた後もゴルフを続けて批判を浴び、退陣の一因となった。

 

森氏は現在、女性蔑視発言で国内外から批判を受けている。(共同)

エンタテイメントを優先した悲劇5S 見える化 コンサルティング

なぜ一般船舶が航行する海上を、軍艦である潜水艦が急浮上したかについて、当時から私は関心をもっていました。そんな危険なことが許されていたのかと。

調べたところ、その大きな原因は、民間人を原子力潜水艦に乗せて体験航海することが行われており、その最大の目玉(ショウ)は、急速浮上するスリリングな体験にあったと思われます。

まさに最大の楽しいショウが、最大の悲劇につながってしまいました。なんという不幸な確率でしょうか? ぶつからなければ、楽しかった思い出ですんだものが!

人生の絶頂期を襲った悲劇5S 見える化 コンサルティング

このとき41歳でこの原子力潜水艦の艦長であった若きエリート軍人スコット・ワドル Scott Waddle(日本の三沢基地生まれ)は、輝かしい軍暦の頂点に立ち、得意の絶頂にありました。

事故の2週間前に出演した米旅行専門局の番組では、彼は次のように、誇らしげに語っていました。

今が私の海軍人生で最高の時だ。グリーンビルの艦長が、今日の米海軍で得られる最高の仕事なのは疑いない。

そんな得意の絶頂から、事故後解任され、悲劇の主人公となったワドル。

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元艦長の謝罪文5S 見える化 コンサルティング

ワドルは、事故20周年に寄せて、謝罪文を寄せました。反省の気持ちのポイントだけ記すと以下の通りです。

この事故のすべての責任は私個人にあった。衝突は回避可能であり、艦長として事故を防げなかったのは、私が義務を怠ったからです。

 

9人がなくなった日に、彼らと共に私の一部も死んでしまいました。私は事故で亡くなった方々やその家族を裏切ったと感じたのです。

 

私は事故以来、羞恥心、悲しみ、苦しみ、自責の念を抱えてきました。この思いは私が死ぬまで続くでしょう。

事故の原因5S 見える化 コンサルティング

「この事故を引き起こした要因」として、グリフィス少将が2001年3月7日に、米海軍査問会議にて、次のように証言しています。

①ソナーの要員や体制に問題があった(熟練者が離席していた)。

 

②潜望鏡深度に浮上する際に、ソナーの解析が不十分であった(ソナーリピーターが故障していた)。

 

③体験航海の民間人の存在が、乗務員のモニター監視を妨げた。

 

④緊急浮上時の優先作業を誤った(ソナー解析、潜望鏡深度での観察)。

 

⑤乗組員が前艦長に注意を促す雰囲気が欠如していた(命令待ち姿勢)。

わかりやすく言えば、民間人を乗せて、エンターテイメントして喜ばせよう、受けようとした緊張感の欠けたたるんだ、軍人にあるまじき姿勢が、悲劇をもたらしたといってよいでしょう。

諫言することの難しさと重要性5S 見える化 コンサルティング

トップである艦長に、「はしゃぎすぎではないでしょうか? もっと慎重に」と、乗組員とくに右腕が進言するには、そうとうの勇気がいったことでしょう(もちろん言い方は糖衣錠をかぶせて、十二分に留意する必要がありますが)。

昔の武将への諫言(かんげん)は、部下にとって命がけだったのです。しかし有能な武将は、ちゃんと諫言を受け入れていました。

今でも同じことです。森喜朗が不適切発言をしたとき、その場の出席者のだれも異議を唱えなかったのは、自分の保身を一番に考えたからだと言われても仕方ありません。とにかくトップの意向に逆らうのは、自分に十分正義がある場合でも、勇気が必要で難しいことなのです。

こうして、さまざまな草の声は踏みにじられてきました。記録改ざんに死を以て抗議した最前線の現場の声も、政府筋では、あたかもなかったかのように踏みにじられようとしています。

行動を変えるのは今でしょ
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悲劇を事前に予防するために、われわれ草草でも勇気をもって声を上げなくてはならないときがあると思います。「それは今でしょ、今しかないでしょ」と言うわけです。もちろん企業の現場でも同じことです。

なぜ一連の大企業・名門企業の不正・改ざん問題が次々に起こったのか、小林化工問題がなぜ起こったのか、もうくり返さないためにも、ここで深く反省の上、行動を変えるべき時が、今でしょ