「顔面付壺型土器」にみられる黥面
東京国立博物館で、以下のような「顔面付壺型土器」を見ました。ここでは、写真撮影禁止のマークがついた表示(全体の1割弱)以外は、撮影が自由ですから、うれしい限りです。ついでにいえば、70歳以上は入場無料なのもありがたいです。
さて、この壺についた人の顔面を見ると、「黥面」と思われる入れ墨がついています。説明文にはその記述がないのですが、目の周りと口の周りに、明らかに入れ墨と思われるものがついています。今回はこれについて考えてみましょう。
『古事記』に2カ所、『日本書紀』に4カ所、古代の入れ墨である黥面(げいめん)と文身の記述があります。黥面とは「顔の入れ墨」、文身とは「クビから下の入れ墨」です。
記紀の黥面に関する記述の特徴は、以下のような内容です。
①黥面は畿内地方、文身は東国に多く見られる。
②黥面は目と関わる。
③畿内地方は男性のみ、東国は男女に見られる。
③の東国は、男女に見られるということですが、これは縄文時代の文化を色濃く残す「アイヌ文化」に引き継がれ、下の写真のように、女性の口元の入れ墨として残ったと考えられます。
④部民、とくに動物を扱うなど下層階級に多く、政権に関わる者はいるが、支配者層はいない。
⑤畿内地方は、久米や安曇など隼人系、東国は蝦夷の人々にみられる。
⑥怖い、臭いといった、よくない印象で語られ、謀反や盗みをはたらいた罪人の刑罰の対象になっている。
おおむね黥面の印象は、支配層にとっては、よくないものだったようです。下々やまつろわぬ者たちのやる、いとうべき風習だったような受け止め方です。
続いて、顔に線刻がある「黥面埴輪」について見てみましょう。
黥面埴輪の特徴は、つぎのようなものです。
①5~6世紀につくられた。
②黥面に近畿型と、関東型の2つのタイプがある。
③近畿型は目を囲む線や目尻からの線があり、関東型は頬にハの字の線がある。
④男性のみ
⑤力士、琴ひきなど、儀礼に関わる人物、盾持人や武人などであり、支配者層にはいない。
⑥力士など、儀礼に関わる人物は、隼人系の可能性がある。
記紀の記述とおおむね一致するようです。それにしてもなぜ一番目立つ顔に、痛い思いまでしてわざわざ入れ墨をするのか、現代人にはわかりがたい謎があるようにも思えます。”ぎょっと驚かす効果”は、確かにあるとは思いますが。それが女性ともなると、どうにもわかりません。古代を理解するには、現代人の”常識”をいったん捨てる必要がありますね。